迷える仔羊はパンがお好き?
  〜聖☆おにいさん ドリー夢小説

     13



イエスへの弟子入りを熱烈に望む、
多感で微妙に天然な、女子高生のさん。
ここは一つ、私の腕前を見てもらおうと構えたのだが、
段取りの途中、
イースト菌の発酵待ちに1時間ほど掛かるとあって、
ちょこっとのつもりで外出していたのがまずかったようで。

 「あああ〜、発酵させ過ぎたかも〜。」

松田ハイツの聖家のキッチンに、
放置しておいたパンの生地は、
随分と大きくなっていたものの、そこは順調でもそうなるものであるらしく。

 「いつものマーブルパンの予定だったから、
  強力粉だけだったでしょ?
  だったら3倍になってるのはいいとして。」

不安のあまりにか、佃煮作りに比べたら 実は覚えたてらしい段取りを
口に出して確認中のさんだったので、
ああそうなんだと、そうとは知らなかった部分を教わっているような格好の
こちら、最聖のお二人でもあり。
膨らんでいる大きさは特に問題はないらしいのだが、

 「どうなんだろう。どう思われますか?」
 「はい?」

自分から言い出した腕試しだというに、
やはりやはり、自信という点では微妙な段階だったものか。
師匠クラスの人と見込んでおいでのイエスへ、
おろおろしつつも“どうしましょう”と訊いて来る始末だったりし。

 《 どどど、どうしよう、ブッダ。》
 《 イエス、落ち着いて。》

何ぶん、実は素人ゆえ、
イエスせんせいにしてみても何とも言えぬ代物であり。
一見、表情も動かさぬままな聖さんたちだが、
その内面ではというと、
そこいらを駆け回りそうなほどあたふたするイエスを、
君までうろたえてどうしますかと、ブッダが何とか宥めているところ。
ここで奇異な行動を取らせるというのもいっそ手だったかも知れませんが、
何しろ、人を丸め込むとか誤魔化すという種の
“企みごと”というものに馴染みのない方たちなので、
一緒になっておろおろしちゃうのを表に出さないでいるのが精一杯だったようで。
それがため、表情豊かにだなんてとてもじゃないが振る舞えなかった、
真顔に近いまんまでいたのをどう解釈したものか。

 「……っ。」

やや追い詰められたようなお顔だったさん、
くっと短く息をつくと、だが、

 「ううう…。
  先生はこういうところも見ておいでだったのですね。」

そう言いつつも、ぎゅうと握った小さなこぶしを唇に当て、
まぶたを伏せ、かすかにふるると震えてから、

 「此処で逃げては負けなんですよね。」
 「え? あ、ああ、うん。そうだねぇ。」

あわわ、泣いちゃダメだと。
てっきり 〜〜〜と思い込み、
ブッダと揃って“わあ”と慌てかかったその鼻先で、
それじゃあ ダメダメっと、気力を“くっ”と食いしばり、
自力でお顔を上げてくださった、やっぱり根性はあるらしいお嬢さん。

 「えっとぉ…。」

置きっ放しをし過ぎた生地の真ん中へ
そろぉ〜っと人差し指を差し入れて。
そこへえくぼを作るよに、深々とした穴を空けて見せる。
きめが揃っていて張りもあった固まりだったものが、
表面に細かいしわもあり、
指を差し入れると空気が抜けてくようにしぼみかかる辺り、
これはやはり、ちょっと失敗しちゃった感もありそな雰囲気だったが。
あらためてがっくりしかかったさんの肩をポンポンと叩くと、

 「これは、焼いてみないと判りませんね。」

何とイエスが、うんうんと力強く頷いて見せたものだから、

 《 ちょ、ちょっと、イエス?》

いくら見るに忍びないからって、こういう“奇跡”はよくないよと。
大人であり指導者でもある経歴は伊達じゃあない、
ここだけは正しい順番というのを曲げちゃあいけないと、
そうと言いたいらしい顔色になったブッダへ、

 《 違うの。》

イエスは ううんと細かくかぶりを振って見せる。

 《 違う?》
 《 うん。私は何もしないし、するつもりもないの。》

そんな伝心での会話が聞こえるはずもなく、
師であるイエスの言葉に頷き返し、
そのままボウルの中へ今度はぐうにしたこぶしを入れ、
静かに沈めつつ空気を抜いてゆくさん。
発酵させ過ぎたパン生地は、焼いてもぱさぱさと堅くなり、
風味も酸っぱくなって食べられたものではないそうだが、

 ただ、もしかしてぎりぎり間に合っておれば、

ふかふか柔らかい出来の、ぎりぎり境目である可能性もなくはない。
何せイースト菌という生き物相手のことだけに、
そして、

 《 この子がね、大丈夫って言うの。》
 《 おや。》

視線でさりげなくイエスが示したのは、さんがこね始めているパン生地で。
そういや、イースト菌とは仲のいいイエス様でしたっけね。(おいおい)

 《 頑張ってみるから任せてって。》

ふふーと笑った彼だったのは、
健気なイースト菌くんの頑張りを微笑ましいなと思ってのことだろが。

 “そういうのも、奇跡の一種じゃあないのかなぁ。”

そうですね、普通一般の人には判らないもの。
それが判る人だというのなら、それはそれで、

 “ますますのこと、
  さんから 名人だという誉れを受けちゃうのに、もう。”

まったくもうもうと、先んじてそこへと気づいたブッダだったれど。
どうしてだろか、そんなイエスだというのへ、
もっと強く言い聞かせ、訂正させないと…という
強引な気分にはなれなかったブッダ様でもあって。

 “よほどにひねくれた相手でもない限り、
  手厳しい“先生”には 到底なれそうにないんだものね。”

かつて、彼らの“祈りの家”にて
両替だの供物の販売だのという“商い”を始めようとした商人たちへ、
そのあまりの図々しさへと怒かったことを例外に、
どんな罪深き存在へも救済の手を伸べたイエスだったのだ。
こんなに懸命なお嬢さんなのへ応えたいとする
イースト菌という、小さき者にもほどがあろう小ささの存在からの
訴えかけが聞こえちゃった以上。
ついつい無下に出来なくても、そこはしょうがないというものかも。

 「えっと。」

空気を抜きながら畳んで畳んでまとめた生地をボウルから取り出し、
秤にかけて全体の重さを確認。
片側が丸められて持ち手になった、スケッパーという道具で、
半分に分け、均等な2つになるように調整して、
表面がなめらかになるよう くるんと丸め、
ベンチタイムという休ませる時間を取ります。
10分ほど経ったら、1つずつを緬棒で押さえて楕円に延ばし、
両脇を中心へ折り込んだものへ、
片面にだけ満遍なくココアを薄く降り、くるりと巻いて。
2つ並べて焼き型にとすんと収め、
ここで生地が型の縁から出っ張るくらいまでという

 「最終発酵にかかります。」

これまた1時間ほど待つのですがと、口にしたさん。
今度こそうっかりは出来ないとばかり、
大きめのビニール袋へ入れたそれ、
調理台に置いたそのまま、じっと傍についてて見守る所存であるらしく。

 《 …極端から極端な人だなぁ。》
 《 でも何か、気持ちは判るよね。》

まさかに逃げ出しはしないのにねと、
微笑ましいことよと、二人からついつい苦笑が漏れたれど。
まましょうがないという心情的なものもまた判る。
うっかりな性分なのだという自覚もあるのだろうし、
そこから来た失敗を、ほんのついさっき やらかしたばかり。
こちらでもスマホのタイマー機能を一応は仕掛け、
そこに居たいなら好きになさいと、
こちらは六畳間へ戻ったイエスとブッダ。
お茶を淹れたり、PCを開いたり、
家計簿をつけたり、ブログのチェックをしたり。
それなりの時間つぶしをしてのそれから、

 “そういや、そろそろお昼だなぁ。”

何てまあまあ長い長い“午前中”だったものなやら。(笑)
スマホのタイマーを確かめてから、ひょいと立ち上がったブッダ様。
ブッダの愛機、石窯スチームオーブンの説明書によれば、
食パンなら40分くらいで焼けるとかで。

 “まま、オーブンを使う料理にする気はないけどね。”

ちょっとごめんねと、流しの下からボウルを取り出し、
冷蔵庫からはキャベツを取り出し。
手を洗って卓袱台へ戻ると、変則的だがそこでの下ごしらえ、
キャベツをバリバリと剥がし、手で四角く千切り始める。
さすがに、キッチンを占拠している身だと気がついたからか、
あっとうろたえかかったさんだが、

 「こっちは大丈夫だよ、集中なさい。」
 「あ、は・はいっ!」

しまった、説法みたいな言い方をしちゃったと、
まろやかな肩を、ひょこりと縮めたブッダへは。
イエスが“大丈夫だよ”と目許をたわめて微笑ってあげて。
自分も立ってゆくと手を洗い、

 「同じくらいに千切ればいいの?」
 「うん♪」

頼める? 任せてvvと、
このくらいの以心伝心は容易いお二人。
じゃあその間にと、今度は流しでお米を洗い、
炊飯器へセットして。
昨日の残り野菜、
ニンジンは短冊切りにしてあったのでそのまま使える、
モヤシは炒める直前にざっと洗えばいいとして。
野菜をニンニクとしょうがで炒めてから、

 “今朝買った厚揚げを千切って、一緒に豆鼓醤と味噌で炒めて。”

食の進むピリ辛炒めと、
キュウリの甘酢漬け…ああワカメもあったかな?
汁ものは、
タマネギと春雨、刻みパセリの中華スープでいいかなぁ、と。
手早く作れるものを、頭の中にて素早く段取りしておれば、

 「…よし。」

さんの方でも、最終発酵が終わったらしく。
指先でそおと表面を押して確かめてから、先に温めていたらしいオーブンへ。
セットの仕様がお家のとは微妙に違ったか、やや手間取っていたが。
扉をバタンと閉じると、ほおと肩を落とすほど吐息をこぼしたのが、
いかにも大きな事業をやり遂げたぞというノリで。
そんな彼女の小さな背中を、やあ微笑ましいと見守っておれば、

 「あ、あのっ、お待たせしました。あとは焼くだけなんで。」

こちら様のオーブンさん任せになりますと、
ぎくしゃくした動作でそこから離れ、
卓袱台のそばへ戻っておいで。
じゃあと入れ替わるようにして、
イエスが頑張った千切りキャベツの入ったボウルを手に、
ブッダがキッチンへと向かい。
さかさか、じゃっじゃと、洗ったり交ぜ込んだり、
春雨をもどしたり、タマネギをスライスして煮込みにかかったり。

 「うあぁ〜vv」

昨夜もそういや、
ブッダの手際がいいのへ
どこか嬉しそうなお顔を向けてくれてたお嬢さん。
今も、何かしらショーアップされたものでも見るように、
パタパタと動く彼の背中を、わくわくと眺めておいでで。
食べるものに携わる家の子だからか、
そういう巧拙へは
自分が出来ずとも感覚的に敏感なのだろうと思われる。
野菜と厚揚げのピリ辛炒めと、キュウリとワカメの甘酢和え、
オニオン風味の春雨スープが仕上がるころには、
炊飯器もぴぴーぴぴーとアラームを鳴らしたし、
オーブンの方も チ〜ンっとお鈴みたいないい音色を放ってくれて。

 「あ、いい匂い。」

お部屋に漂う香ばしい匂いは、上出来だと教えてくれており。
発酵させ過ぎの失敗だけは、ギリギリで免れられたようだったけれど。

 「…だ、大丈夫かな。」

いい焦げ茶の表面へ溶かしバターを塗りながら、
この期に及んで、再び不安がよぎったらしいさん。
だって師匠へ見てもらう品を作っているんだものと、
そんな緊張が頭をもたげたらしかったものの、

 「うん、いい匂いじゃないの。」

酢っぱい匂いとやらは確かにしないし、
何より、イエスはイースト菌さんとの対話もしている。
大丈夫だよと微笑っておいでの師匠にほだされ、

 「はい…はいっ。////////」

早くも涙目になっておいでのお嬢さんなのへ、
最聖のお二人も貰い泣きしかかり。

 「さあ、冷めるまで待ってる間にご飯にしようか。」

じんとする目許やお鼻を押さえつつ、
こっちも美味しいよと
卓袱台にほかほかと並んだ、
ブッダ様の手になるランチをいただくことにした三人で。
このまま楽しい午後になるといいですね。







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  *皆様に案じていただいてたパンが、
   ようやく焼けたみたいです。(笑)
   もはや当初のあらすじからも逸れつつあるお話です。
   もちょっと とんとん拍子に鳧がつくはずだったんですけれどもね。
   どっちが本筋なのやら、
   ラブラブ甘甘なお話の方が性に合ってたらしく、
   あっちばっかり更新している有り様で。
   こっちも決着だけはつけないとねぇ…。


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv


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